2026.07.03(Fri)イベント報告

イエメン珈琲とお菓子のコラボ

6/28(日)は、「イエメン珈琲と中東菓子のペアリング会」というイベントで、お菓子を提供させていただきました。主催者は海外の旅と食をこよなく愛するsayuri旅の助さん。不定期で「旅會」というイベントを企画・運営されています。毎回、どこかの国にテーマを決めて、その国の料理を皆で味わいつつ文化理解を深めたり、旅情報を交換しあったりしていらっしゃいます。集まる皆さんも、旅の助さんのまわりに集まる方々だけあって、海外旅行の達人・ツワモノばかり。実に楽しそうな会です。

イエメンは、そんなsayuri旅の助さんが、「昔からずっと行きたいと思っている憧れの国」なんだそうです。

今回イエメン珈琲を提供してくださったのは、「Mocha Origins(モカ・オリジンズ)」さん。イエメン人のタレックさんと日本人のひとみさんご夫妻で、イエメンのコーヒー農家から直接コーヒーを買い付け、日本をはじめ世界に広げる活動をしていらっしゃいます。高槻市に実店舗「サラームコーヒー」も構えていらっしゃいます。一緒にお仕事できて光栄でした。

飲料としてのコーヒー発祥の地イエメンでは、2000メートル級の高地の段々畑で、小規模農家が今も超伝統的なナチュラル製法でコーヒー豆を生産しています。イエメンコーヒーの複雑でフルーティーな甘味と、キレのある上品な酸味は唯一無二。スペシャルティコーヒーの世界で、極めて高い評価を受けています。
また、乾燥させたコーヒーチェリーの果皮と果肉を、生姜やスパイスとともに煮出した「ギシル」というイエメン独自の飲み物もあります。これは、コーヒーチェリーを丸ごと天日干しするからこその副産物。イエメン現地では、豆から入れるコーヒー以上にギシルが日々の生活の中でよく飲まれています。

スライドを交えたイエメンのお話は大変価値のあるものでした。私が以前から興味を持っている「世界最古の摩天楼」、イエメン高地の多層建築群の写真もたくさん見せてもらえました。

今回、私が作ったお菓子は、次の三つ。
1. イエメンの蜂蜜パン、ビント・アル・サハン(タレックさんに発音してもらうと、「ベンタッ・サッハン」と聞こえる、リズム感のある音でした)。合わせたドリンクは、イエメン人の日常に深く根付いたギシル。健康茶みたいな感覚で、大きなカップで一日に何杯も飲むそうです。

ビント・アル・サハンはなかなか手の込んだパンです。一台につき12層の生地を薄く伸ばして皿一杯に広げ、焦がしバターを塗っては重ねていきました。一番上にギー、卵黄、ニゲラシードを振って焼き、熱々のうちに蜂蜜をたっぷりとかけます(イエメンは蜂蜜の名産地です!)。パンなんですが、イエメンでは、週末やおもてなしの際に、食事の最後にデザート的に出てくるそうです。タレックさんによると、一抱えもある大きな皿で焼くんだとか。大勢が手を伸ばして、ちぎって食べるそうです。オーブンから出して15分以内に食べるのが一番おいしいので、段取りは時間勝負でした。今回のために試作を重ねてやっと自分のものに出来たので、1回のイベントだけで終わるのはもったいない。またどこかでこれを作る機会があるといいなと思っています。

 

2. 次のお菓子は、ナッツとビターチョコをトッピングしたデーツプディング。合わせたのは、チョコでコーティングしたフルーツのような風味とも形容されるユニークなコーヒー、「フルーツ&ショコラータ」。ペーパーフィルターで淹れたストレートコーヒーです。実はイエメンでは、こういう飲み方は一般的ではありません。ショウガやスパイス類と一緒に煮だしたコーヒーを、濾さずにカップに注いで上澄みを飲む「ブン」というコーヒーがイエメンの伝統です。

かつてイエメンのモカ港から輸出されたコーヒー豆が、オスマン帝国の首都イスタンブールで、現在も良く知られている「トルココーヒー」となったわけですが、トルコではショウガやスパイス類を入れない代わりに、富の象徴ともいえる砂糖をたっぷり入れて煮出すようになりました。濾さずにカップに注いで、コーヒー粉が自然に沈むのを待ち、上澄みを飲むトルココーヒーのスタイルは、イエメンの「ブン」が原型だったのです。

やがてコーヒーはヨーロッパへ広がります。産業革命を経て社会的風潮が効率重視に変化していったことや、近代的な上下水道を備えた都市と家の登場とも関係し、コーヒーを「濾す」方法が模索されるようになります。現在のようなペーパーフィルターが発明されたのは、1908年。ドイツの主婦、メリタ・ベンツさん、あの「Mellita(メリタ)」の創業者です。コーヒーの粉にお湯を通して抽出し、終わったらフィルターごとポンと捨てるスタイルが主流になり、同時にコーヒーの味も雑味の少ないクリアなものへと大きく変わることになります。

イエメンでは、現在もペーパーフィルターでコーヒーをドリップする文化は家庭の日常にはありません。しかし、世界中の「サードウェーブ」の文脈の中で、ドリップで淹れたイエメンコーヒーの味が高く評価されているというのは面白いところです。

こういった背景を考慮して、Mocha Originsさんのハンドドリップで淹れるコーヒーには、特にイエメンの伝統菓子を合わせなければいけないという必然性はないだろうと考え、純粋にコーヒーの味に合うもの、という観点から、自由に発想したお菓子をご用意しました。ただし、イエメンらしい食材、デーツはやはり取り入れたかったので、デーツのモダンなアレンジとして、デーツプディングにしました。

 

3. 最後は、トルコのオレンジケーキ、ポートカルル・ケク。合わせたのは、やはりハンドドリップで淹れたストレートコーヒー、「ワディ・ハラズ」。苦みはありつつも後味に甘さがあり、軽くて華やかな風味のコーヒーです。ぬるめに淹れると特に個性が際立ちます。以前、このコーヒーと一緒にトルコのオレンジケーキを食べた時、瑞々しいオレンジがコーヒーとこんなに合うなんて!と感動した個人的な経験から、3つ目のお菓子はこれに決めました。3種類のドリンクとお菓子をコース仕立てにしたとき、最後は軽やかにしめたい、という意図にもぴったりでした。

 

好評をいただきましたし、私たち関係者もとても楽しかったので、また第2弾をやりたいね!と話しています。次にやるとしたら、何をつくろうかしら。ビント・アル・サハンはまた作りたい. タレックさんが特に好きだというイエメンのハラワとか、お料理も作りたいな。。。と、夢を膨らせています。

 

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