2026.05.21(Thu)ブログ
ガザのスパイスで炊くマクルーバ ~砂漠の足跡~
今月は「マクルーバとスイートチーズロール」というタイトルで、パレスチナの家庭の味をお届けするレッスンを開催しています。
初夏の陽気となった今月、まずはウェルカムドリンクの真っ赤なスイカジュースで喉を潤していただき、さっそく調理スタート。
メインは、大皿の上に豪快にひっくり返す、中東の炊き込みご飯「マクルーバ」です。
マクルーバはヨルダンやパレスチナ、シリアなどで広く愛されている家庭料理ですが、昨年来、うちのマクルーバのスパイス・ミックスは、名著『The Gaza Kitchen』に掲載されているガザ地区伝統の「キドラ・スパイス」の配合を再現しています。
このスパイス・ミックスの何よりの特徴であり、私が個人的にも深く惹かれているのが、配合の中に「ブラックレモンパウダー(ルーミー)」が含まれている点です。
実は今から10年前、パレスチナのヨルダン川西岸地区北部にあるジェニン出身の友人にマクルーバを習ったことがあるのですが、彼女のスパイス・ミックスにはブラックレモンは含まれていませんでした。彼女はブラックレモンの存在自体は知っていたものの、彼女たちの出身地域ではそれほど使ってはいないようでした。西岸地区では、酸味に関してはフレッシュなレモンや、「スマック」というスパイスがもっぱら使われます。
本来、乾燥させたブラックレモン(「ブラックライム」とも呼ばれる)は、イランや、ペルシャ湾をはさんだ対岸の湾岸アラブ諸国で主役となる砂漠の調味料です。地中海沿岸に位置するガザ地区で、なぜこのスパイスが伝統的に使われているのか――。
その背景には、ガザという土地が持つ地理的・歴史的な背景があります。ガザは南に広大なネゲブ砂漠を控え、古くから砂漠を往来する遊牧民ベドウィンたちの交易の拠点でした。持ち運びやすく保存のきくブラックレモンは、ベドウィンたちの移動とともにガザの市場へと流れ込み、独自の力強くエキゾチックな食文化を形作ったのです。オリーブやハーブの風味を優雅に活かす北部のジェニン流とは異なり、ガザの料理にどこか湾岸料理を思わせる重厚なコクがあるのは、この砂漠の足跡があるからなのですね。「ナクバ」により南部からベドウィンたちがガザ地区に逃げ込んだこともあり、ガザ地区には今もベドウィン系の住民が一定数います。
レッスンでは、このブラックレモンパウダーがもたらす、まろやかで深いコクに、参加された皆さまからも絶賛の声をいただきました。
マクルーバの副菜には、カラフルな茎が美しいチャード(フダンソウ)を使った「マハシー」。そして口をさっぱりとさせてくれるアラビックサラダと胡瓜ヨーグルトを作りました。

食後のデザートには、チーズ入りのモチモチした生地でアシュタ(軽いクリーム)を包み、ピスタチオとバラの花弁をあしらった「ハラウェット・エル・ジブン(スイートチーズロール)」。シリア発祥と言われるスイーツです。甘さ控えめで、日本人の口にもよく合います。
レッスン後に ご自宅でもコク深いマクルーバの味をすぐに再現できるよう、キドラ・スパイスを1回分ずつ個装して皆さまにお持ち帰りいただきました。
ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました!